はじめに
AIスタートアップとして注目を集めたオルツ(Alt Inc.)は、革新的な「AI議事録」サービスを提供するなど、国内の生成AI市場をリードする存在でした。
しかし2025年、同社は大規模な不正会計を巡って上場廃止に追い込まれ、業界全体にも衝撃が走りました。
本記事では、
- オルツのAI議事録とは何か?
- どのように業界で注目を集めたのか?
- なぜ不正会計に至ったのか?
をわかりやすく解説します。
オルツのAI議事録とは?
オルツが開発・提供していた「AI議事録」は、音声認識+要約AI+自然言語処理を融合した高度な議事録自動化サービスです。
以下のような特徴を持ち、多くの企業に導入されてきました。
主な機能
- リアルタイム音声文字起こし(Zoom/Teams連携あり)
- 話者ごとの発言分離
- 重要キーワード・決定事項・TODOの自動抽出
- 自動要約(1分で要点把握)
- SlackやGoogle Workspaceとの連携
特にビジネス会議や商談、社内報告などにおいて、「議事録を取る人が不要になる」という点が大きな魅力でした。
また、2023年以降は「P.A.I(パーソナル人工知能)」構想の一環として、個人ごとに最適化された議事録AIも研究開発されていました。
急成長と市場からの期待
- 2014年創業
- 2020年代には多くの大手企業とPoC契約を獲得
- 2024年10月、東証グロース市場に上場
- 「5年で時価総額1兆円を目指す」と豪語
その背景には、AI議事録やパーソナルAIによる業務効率革命への期待がありました。
不正会計の発覚
ところが、2025年春、オルツの決算内容に不自然な点があるとしてSNSや一部投資家の間で疑念が広がり、元社員による告発も発生。
証券取引等監視委員会の調査を経て、7月末に第三者委員会の報告書が公表されました。
主な不正内容
- 循環取引による売上の水増し
実態のない取引で資金を自社に戻し、それを「売上」として計上。 - 不正会計の規模:最大119億円(売上の91%)
- 影響期間:2020年〜2024年の決算
- 虚偽の黒字報告、実際は赤字続き
結果、同社は2025年8月31日付で上場廃止が決定。創業者でありCEOの米倉千貴氏も辞任しました。
なぜ不正は起きたのか?
報告書では次のような要因が指摘されています。
- 「急成長」への過剰なプレッシャー:「1兆円企業」の目標に現場が追いつかなかった
- 企業文化の問題:トップダウン型で、異論が言いにくい組織
- ガバナンスの欠如:社外取締役や監査機能が機能不全
- 監査法人・主幹事証券のチェック不足
AI業界全体への影響と教訓
この事件は、単なる一企業の問題ではありません。
急成長を遂げるAI・スタートアップ業界において、ガバナンスの重要性と成長と倫理のバランスを問い直すきっかけとなりました。
今回の教訓:
- 技術やビジョンだけでなく、透明性ある経営と監査体制の構築が不可欠
- AI議事録のような業務インフラにおいても、信頼性・説明責任が求められる
- ベンチャー投資・監査・証券市場の審査プロセスの見直しも必要
まとめ
項目 | 内容 |
---|---|
サービス名 | オルツ AI議事録 |
特徴 | 自動文字起こし・要約・タスク抽出・連携機能 |
強み | 高精度な自然言語処理、日本語対応に強み |
問題点 | 循環取引による売上水増し、不正会計 |
結末 | 2025年8月に上場廃止、創業者辞任 |
業界への示唆 | スタートアップにおける統制と倫理の重要性 |
おわりに
オルツは、技術力と将来性では確かに光るものがありました。
しかし、不正により築いた成長は砂上の楼閣でした。
今回の件はAIそのものの問題ではなく経営の問題ですが、
「AI企業=派手なビジョンの裏に数字操作が潜んでいる」
という印象を世間に与えかねないのが懸念点です。
特にAI議事録のように信頼性が最も重視されるツールを扱う企業で不正があったのは、業界全体にとって大きな打撃です。
今後AI業界は、「透明なテクノロジー」を掲げる新しい時代に向かって進むべき段階に来ているのかもしれません。