近年、生成AIを用いて著名人の顔や声を合成した偽の広告(いわゆるディープフェイク広告)がYouTubeなどの動画プラットフォーム上で増えています。これらはしばしば投資や副業、LINE登録へ誘導する形式で配信され、個人情報や金銭をだまし取ることを目的とした悪質な手口が多く見られます。
本記事では、問題の背景、典型的な手口、見分け方、実際に通報するためのチェックリストと報告文サンプル、被害に遭った際の対応を分かりやすく整理しました。個人での備えはもちろん、周囲への注意喚起にお役に立てば幸いです。
問題の概要
- 何が起きているか:著名人の顔・声・口の動きを生成AIで合成し、あたかも本人が投資や支援を勧めているかのように見せる広告が配信されています。見た目が似ているため信頼してしまう利用者が多く、被害に繋がる危険があります。
- 狙い:広告経由で外部サイトやSNS(主にLINE)に誘導し、そこで個人情報取得や投資の勧誘、入金要求などの詐欺行為につなげます。
- 特徴:短時間で大量に出稿される、同様の文言で複数の広告が回る、表示箇所(アプリ内、ブラウザ)が幅広い、など。
典型的な手口(広告が辿る流れ)
- YouTubeの広告枠(動画の前後、ショート、再生中の差し込み)に表示される。
- 有名人に似せた映像・音声で「簡単に稼げる」「限定オファー」などを強調。
- 広告のリンクから外部のLP(ランディングページ)へ誘導され、そこでLINE登録やメール登録を促す。
- 登録後に個別チャットや電話で本人確認を装い、投資や支払いを要求する。
ひっかかるとどうなるか?
1.投資や支払いを要求される
- 「少額から始められる」「限定オファー」と称して入金を迫られる。
2.個人情報を抜き取られる
- 氏名・住所・電話番号・メールアドレスなどが悪用される。
3.カード情報を盗まれる
- クレジットカードや銀行口座の情報を入力させられ、不正利用されるリスクがある。
見分け方(注意すべきサイン)
- 声と口の動きにズレがある(音声合成と口パク合成の違和感)
- 会話のイントネーションが不自然、言葉遣いが普段の本人と異なる
- 過度に利益を保証する表現(「必ず儲かる」「短期で大幅利益」など)
- 公式チャネルでの告知がない:本人や企業の公式サイト・公式SNSに同様の案内がないか確認する
- すぐにLINE登録を促す/個人情報や入金を急がせる
- 広告の出どころが不明瞭:広告の右下「i」やメニューから表示される広告リンクを確認すると不自然なドメインの場合がある
通報に使うチェックリスト(記録しておくべき項目)
通報や被害届作成のため、以下の情報をできるだけ記録してください。スクリーンショットや録画が最も有効です。
- 広告が表示された日時(年月日+概ねの時刻)
- 視聴環境:YouTubeアプリ(iOS/Android)/PCブラウザ/スマホブラウザなど
- 広告の表示状況:動画再生前・再生中・ショート動画内など
- 広告のスクリーンショット/録画(広告冒頭、人物・文言がわかる部分)
- 広告に表示された人物や名前(例:「○○氏を名乗る男性」など)
- 広告のURL(広告から直接コピーできる場合あり)
- 誘導先のURL/遷移先のスクショ(ランディングページ/LINE登録画面など)
- 誘導されたLINEアカウント名やID(可能であれば)
- 不自然に感じた点(口の動きの違和感、誇大表現、即時登録を促す等)
- やり取りの記録(メッセージ、スクショ、決済履歴がある場合は保存)
これらの記録は、プラットフォームへの通報、金融機関への相談、警察への届出に役立ちます。
報告文の書き方(サンプル)
以下はYouTubeやGoogle、または警察・金融機関に提出しやすい報告文のサンプルです。必要に応じてコピーしてお使いいただけます。
件名:著名人を偽装した詐欺的広告の報告
発生日時:2025年9月1日 20時15分頃
視聴環境:YouTubeアプリ(iPhone版)、動画再生前広告
広告の内容:
- 「○○氏(著名人)」を名乗る人物が登場し、特定の投資案件への参加を呼びかけていました。
- 映像と音声に違和感(口の動きと声のズレ)、生成AIによる合成と思われます。
- 「短期間で高利回り」「限定枠」等の誇大表現があり、LINE登録へ誘導されました。
広告URL/スクリーンショット:添付済み
誘導先情報:LINE登録ページ(ID: ○○○、URL: ○○○)
備考:本人の公式チャネルには同様の案内は確認できません。偽装広告の疑いが強いためご確認ください。
クリックしてしまった、連絡してしまった場合の初動対応
- 個人情報・金融情報を渡していないか確認。渡している場合は、相手に知らせず、まず証拠を保存する。
- 銀行・カード会社に速やかに連絡して、不正利用の可能性を伝える(カード停止、返金相談等)。
- パスワードを変更、重要なアカウントは二段階認証を有効にする。
- やり取りのスクリーンショットを保存し、警察や消費者センターに相談する(証拠として役立つ)。
- 金銭被害が発生した場合は警察への届出(最寄りの警察署または相談窓口)を行う。
プラットフォームに対してできること(YouTube/広告配信会社など)
- 広告の右下にある情報メニュー(「i」や三点リーダー)から広告を報告できます。スクリーンショットを添付すると対応が早まる場合があります。
- 「操作されたメディア」や「なりすまし」など、プラットフォームのポリシーに抵触する点を明確に伝えると良いでしょう。
- 公式発信元と偽装の対比(本人の公式アカウントにそのような案内が無い旨)を添えて報告することで、信憑性が上がります。
- YouTubeの広告はGoogle広告に分類される為、Googleに直接報告することができます。詳しくはこちらのリンク↓をご参照ください。https://support.google.com/google-ads/answer/7660847?hl=ja
最後に — 個人と社会でできること
AIは便利な一方で、悪用されると深刻な被害につながります。一人ひとりが見分ける力を高め、怪しい広告を見つけたら記録して通報する――この小さな行動の積み重ねが、被害を防ぐ大きな力になります。
(この記事は啓発目的で作成しています。具体的な法的措置や手続きが必要な場合は、弁護士、消費生活センター、警察相談窓口など専門機関へご相談ください。)